ーMALDI-TOF MSによる「浅漬け」低温保存下での菌叢変化解析研究ー
浅漬けをはじめとする野菜加工食品メーカーの株式会社アキモ(所在地:栃木県宇都宮市、代表取締役社長:秋本 薫)は、九州産業大学生命科学部および株式会社ウエルシーライフラボ(所在地:栃木県宇都宮市、代表取締役:佐藤 香苗)との共同研究により、迅速、簡便で注目されているマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI-TOF MS)による菌種同定手法を用い、当社の白菜浅漬けにおいて、低温保存下で検出された、生菌数の推移および菌叢変化を調査しました。その結果、浅漬けは、1週間程度の短い期間中でも昔ながらの漬物と同じ発酵過程を経る、安心安全な発酵食品であることが、初めて明らかとなりました。今回の研究成果は、2019年11月28日(木)~29日(金)に開催されました「第40回日本食品微生物学会学術総会」にて発表いたしました。
■研究の背景と目的
昔ながらの漬物は、高濃度の食塩や、乳酸菌の増殖に伴って産生する乳酸等の代謝物により、腐敗の原因となるグラム陰性菌の増殖が抑制されるという発酵過程を経る安全性の高い食品であることが知られています※。浅漬けは、低塩度で非加熱の食品であるため、野菜由来の乳酸菌などが残存しています。これら残存する様々な菌の増殖性をコントロールするために調味液などに独自の工夫を施し、10℃以下という低温で流通され、一般的に1週間程度という短い賞味期限が設定されています。しかし、浅漬けの賞味期限の設定根拠は生菌数の推移のみであり、これまで乳酸菌などの菌叢の変化を詳細に検討した研究例はほとんどありませんでした。
そこで本研究では、低温保存下で、浅漬け中の菌叢の変化を把握することを目的とし、1週間程度の期間、経時的に分離した菌について、MALDI-TOF MSによる新しい手法を用いて菌種同定を行い、詳細に検討を行いました。
※参考文献 宮尾茂雄:「漬物の微生物学の進歩(その1)」, 日本釀造協會雜誌, 第82巻 第1号(1987)
■研究方法
包装前の半製品及び10℃で保存した白菜の浅漬けについて、一般生菌、低温増殖性の良い乳酸菌及び酵母の分離を、1週間程度経時的に行いました。それぞれ単離した細菌および酵母について、MALDI-TOF MSによりマススペクトルを取得し、得られたマススペクトルデータから、微生物同定システムMALDI Biotyper(Bruker社)を用いて解析し、菌種の同定を行い、生菌数および菌叢の変化の確認を行いました。
■結果とまとめ
MALDI-TOF MSによる菌種同定の結果、低温保存中の浅漬けにおける菌叢変化を非常に簡便かつ迅速に把握できました。1週間程度の調査結果から、低温保存中の浅漬けにおいても、低温増殖性を有す乳酸菌が増殖し、優占菌となることによって、汚染菌種の増殖が抑制されていることが分かりました。このことから、当社の浅漬けは、昔ながらの漬物と同じ発酵過程を経る安全安心な『発酵食品』であるということが初めて明らかとなりました。
当社では今後も、より高い製造技術を目指しながら本研究を発展させ、発酵を活かした技法をさらに追及し微生物の働きと良い関係を築くことを大切に、浅漬け製造に従事してまいります。そしてお客様の健康を第一に考えた安心安全な商品開発を行っていく所存です。